ドップラーライダーによる気象観測─レーザー光を使って風や雨を測る─

はじめに

ライダー(LIDAR: LIght Detection And Ranging, 光検出と測距)は、レーザー光を空気中に送信し、エアロゾル、大気分子、雲などから後方散乱した光を受信して、その性質を調べることで、物質までの距離や、その性質、風などを測定する装置です。ライダーは、その目的によっていろいろなものが開発または研究されていて、距離の測定、エアロゾル、雲、砂塵粒子等の測定、大気温度の測定、さらに、二酸化炭素やオゾン等の測定、風の測定に使われています。ライダーはレーザー光を使うレーダーという意味で、レーザーレーダーとも呼ばれています。

NICTでは、気象災害予測や地球環境保全のために、地上や宇宙から風や二酸化炭素を正確に測定できるライダーの研究開発およびライダーによる風や雨の観測を行っています。

レーザー光送出部(左上)、屋外へレーザーを送出するための反射鏡(右上)、波形モニタ(左下)、ライダー用コンテナ(右下)

レーザー光送出部(左上)、屋外へレーザーを送出するための反射鏡(右上)、
波形モニタ(左下)、ライダー用コンテナ(右下)

ドップラーライダーによる風観測

大気中で動いているエアロゾル、雲、大気分子から後方散乱されて返ってくる光の周波数は、大気の動きによって微妙に変化します。このような周波数の変化をドップラー効果と言います。ドップラー効果を利用して大気の動き(=風)を測定するライダーを、ドップラーライダーと呼びます。NICTでは、この周波数変化を測定することで風を測定するドップラーライダーの研究開発を行っています。

図1にNICTで開発したドップラーライダーの写真です。ドップラーライダーはNICT本部に設置したコンテナ中に収納されており、コンテナ上部のスキャナから送信されたレーザー光は、空気中のエアロゾルに後方散乱されて、同じスキャナを通って受信されます。NICTで開発したレーザーは目に安全な波長(=アイセーフ波長)である2 μmで発振し、スキャナにより任意の方向に送信することができます。図1にこの装置で測定した風分布の例を示します。2010年7月5日の板橋豪雨の時の、東京都西部の雨量と、ドップラーライダーで測定した仰角を2度に固定して水平面にスキャンをした時の風分布を表しています。ドップラーライダーは図の中心付近にあり、装置を中心とした各方向の風成分を測定しています。猛烈な雨をもたらした積乱雲に向かって強い南東風が吹き込んでいる様子が、ドップラーライダーによって捉えられています。

図1 NICTで開発したCO<sub>2</sub>差分吸収ドップラーライダーおよび同装置を使って測定した2010年7月5日の板橋豪雨の時の風分布(暖色系の色がライダーから遠ざかる風、寒色系の色がライダーに向かってくる風を表しています)。

図1 NICTで開発したCO2差分吸収ドップラーライダーおよび同装置を使って測定した2010年7月5日の板橋豪雨の時の風分布(暖色系の色がライダーから遠ざかる風、寒色系の色がライダーに向かってくる風を表しています)。

2014年3月には、NICTの拠点のある沖縄と神戸の敷地内にフェーズドアレイ気象レーダー・ドップラーライダー融合システムを設置しました(図2)。沖縄と神戸のドップラーライダーにも目に安全な波長である1.5 μmのアイセーフ波長を用いています。

ドップラーライダーはフェーズドアレイ気象レーダーやその他の気象測器と連携して動作し、空間気象データ収集実験システムの一部を構成します。ドップラーライダーによって測定された風のデータは、空気中の水蒸気分布を測定できるマイクロ波放射計、空気中のエアロゾル濃度を測定できるスカイラジオメータや他の大気観測機器の観測データと組み合わせて、局地的大雨をもたらす積乱雲の発生環境場の解明および局地的大雨の早期発生予報に用いる予定です。

図2 神戸のNICT未来ICT研究所にフェーズドアレイ気象レーダー・ドップラーライダー融合システム(PANDA)の一部として設置したドップラーライダー。

図2 神戸のNICT未来ICT研究所にフェーズドアレイ気象レーダー・ドップラーライダー融合システム(PANDA)の一部として設置したドップラーライダー。

屋外へレーザーを送出するための反射鏡

屋外へレーザーを送出するための反射鏡

ドップラーライダーによる雨観測

ドップラーライダーは、レーザー光を使って風の遠隔測定を行う装置ですが、雨の観測を行うこともできます。降水時にドップラーライダーで鉛直上向き方向の観測を行うと、大気中のエアロゾルおよび雨滴からのレーザー光の後方散乱によって、二つのピークを持つドップラー速度分布が得られます。この速度分布を分離して、大気からの速度分布と雨滴からの速度分布を解析することによって、鉛直風や雨に関する情報(落下速度、雨滴粒径分布等)を同時に遠隔測定することができます。

現在はNICT本部とNICT沖縄のドップラーライダーとその他の雨測定測器群との比較測定を行っています。図3はNICT本部のドップラーライダーで測定した2014年6月24日の鉛直風および雨滴落下速度の時間変化です。この日は、瞬間的に最大50 mm/h以上の非常に激しい雨が降り、ほぼ同時刻にはNICT本部がある東京都小金井市の隣の三鷹市で季節外れの雹が降りました。15時25分頃には、ドップラーライダーによって降雨による下降気流と非常に強い雨が観測されているのがわかります。

ドップラーライダーを用いると、地表からの余計な反射を気にする必要がないので、気象レーダーでは測定が困難な大気下層の雨の情報を得ることができます。ドップラーライダーで観測した雨の情報は、雨観測衛星の観測結果の地上検証用データとして役立つと期待されます。

図3  NICT本部のドップラーライダーで測定した2014年6月24日の鉛直風および雨の落下速度の時間変化(暖色系はライダーから遠ざかる風および雨、寒色系はライダーに向かってくる風および雨を表しています。右上に挿入された図は同時刻のNICT本部の雨量を示しています)。

図3  NICT本部のドップラーライダーで測定した2014年6月24日の鉛直風および雨の落下速度の時間変化(暖色系はライダーから遠ざかる風および雨、寒色系はライダーに向かってくる風および雨を表しています。右上に挿入された図は同時刻のNICT本部の雨量を示しています)。

研究開発中の青木研究員

研究開発中の青木研究員

おわりに

将来的にはドップラーライダーを衛星に搭載し、地球全体の風分布を計測することで、世界的な天気予報および台風進路予測の精度向上に寄与したいと考えています。そのための基礎研究として、航空機等に搭載して観測できる搭載型ドップラーライダーの開発を進めています。図4はNICTが開発している航空機搭載CO2差分吸収ドップラーライダーの光学系です。

CO2差分吸収ライダーは、二つのレーザーの二酸化炭素による吸収量の差を利用して風と二酸化炭素を遠隔測定する装置です。今後は開発した航空機搭載ドップラーライダーの地上検証実験、実際に航空機に搭載して風や二酸化炭素の測定を行う予定です。

図4 NICTで開発している航空機搭載CO<sub>2</sub>差分吸収ドップラーライダー。

図4 NICTで開発している航空機搭載CO2差分吸収ドップラーライダー。

 

ライダー送出部の調整風景

ライダー送出部の調整風景


研究者紹介