Pi-SAR2の準リアルタイム機上処理システムの開発─災害時の被災地の迅速な状況把握に向けて─

はじめに

NICTでは、空間分解能を大幅に向上させた第二世代の航空機搭載合成開口レーダ(以下「Pi-SAR2」という)の研究・開発を行っています。Pi-SAR2は、昼夜・天候・雲や噴煙の有無に左右されることなく、高度8,000~12,000 mから地表面の状態を5 km以上の幅で観測することができ、また、合成開口処理技術とパルス圧縮処理技術を利用することにより、世界最高レベルの30cm分解能で地表面を画像化することができます。NICTでは、大規模な災害が発生した場合には、被災地の緊急観測を実施し、観測画像を関係機関に提供することで、被災地の迅速な状況把握に貢献してきました。

しかしながら、Pi-SAR2の観測データの画像化には複雑な信号処理を必要とするため、地上の対象を詳細に識別できる多偏波疑似カラー合成画像については、機上では作成することができず、一旦、観測データを地上システムに移して処理する必要がありました。そのため、多偏波疑似カラー合成画像の提供に観測後1日程度を要し、情報を必要とする機関に必ずしも適切なタイミングで観測画像を提供することができませんでした。そこで、災害発生時にPi-SAR2の観測データを被災地対策等に有効に活用していただけるよう、航空機上において高速多偏波疑似カラー合成画像処理を実現するための、準リアルタイム機上処理システムの開発を2011年度に着手し、2012年度に完成させ、このたびその有効性を実証しました。

Pi-SAR初号機のアンテナ実機

Pi-SAR初号機のアンテナ実機

地上処理システムの高速化

機上処理システムを設置する航空機には、スペースや電力の制限があります。そのため、航空機上で高速なデータ処理を行うためには、そうした制限と必要とする処理性能とのバランスを考えながらシステム開発を進める必要があります。そこで、最初に設置スペースや使用電力の制限が少ない従来の地上処理システムの処理性能を10倍高速化(5km四方の画像処理時間:3時間以上→18分以内)することを目標に開発を進めました。

システムの概念検討、概念設計を行った結果、処理装置の演算部をCPUだけで構成すると、処理装置が大規模になり、スペースや電力に制限がある機上処理システムへの展開が困難であることが明らかになりました。そこで、CPUに加えてスーパーコンピュータへの利用が進んでいた最新のGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)を演算部に使用することとし、また、地上処理装置の処理能力を最大限に発揮させるため、CPUとGPGPUに最適化した処理ソフトウエアの開発を行いました。性能検証の結果、開発した地上処理システムは目標性能を十分に満たし(5km四方の画像処理時間7.5分)、さらにこの地上処理システムで開発した技術を利用することで、準リアルタイム機上処理システムの開発が可能であることがわかりました。

※)新たに開発した地上処理装置(倍精度演算性能2.826Tflops、大きさ2U、消費電力1,800W)と同じ演算性能を、検討時(2011年)に想定したCPU(83.04Gflops、消費電力130W)で実現した場合、演算部に34個以上のCPUを実装した処理システムの構築となり、その大きさはサーバ用ラック2台以上、消費電力は10,000W以上となります。

Pi-SAR2データの展示パネル

Pi-SAR2データの展示パネル

機上処理システムの高速化・高度化

新たな地上処理システムの開発ノウハウを利用することで、航空機上で高速に多偏波疑似カラー合成画像を作成することができる、準リアルタイム機上処理システム(5km四方の画像処理時間15分、倍精度演算性能1.48Tflops、大きさ1U、消費電力930W)の開発に成功しました。これにより、従来、機上では単偏波画像(モノクロ画像)しか作成することができませんでしたが、より判読性が高い多偏波疑似カラー合成画像を機上で作成することが可能となりました。

さらに、通信衛星等を活用することで、航空機上で画像化した被災地等の観測データを、航空機から、直接、関係行政機関や研究者等へ伝送することが可能となり、災害発生時における迅速な情報提供が可能となります。図1は、本システムを利用した自然災害発生時の緊急観測のイメージを示しています。

図1 準リアルタイム機上処理システムを用いた自然災害発生時の緊急観測のイメージ

図1 準リアルタイム機上処理システムを用いた自然災害発生時の緊急観測のイメージ
機上でデータを高速処理し、情報を必要とする関係機関へ伝送する。

Pi-SAR2航空機模型

Pi-SAR2航空機模型

準リアルタイム機上処理システムの実利用例
~桜島の緊急観測~

NICTでは、平成25年8月18日に発生した桜島昭和火口での爆発的噴火に際して、桜島周辺の緊急観測を8月20日に実施しました。図2は桜島を南西方向から観測したときの航空写真と2km四方の多偏波疑似カラー合成画像です。航空写真では、雲や噴煙により地表面の状況を把握することはできませんが、多偏波疑似カラー合成画像では、昭和火口の形状や山の斜面の細かい起伏や形状等を詳細に判読することができます。本カラー画像は、航空機上から商用通信衛星経由で地上に伝送され、直ちに気象庁を通じて火山噴火予知連絡会等関係機関に提供されました。本緊急観測により、これまで観測後1日程度要していた多偏波疑似カラー合成画像の提供時間をわずか10分程度にまで短縮できることが実証されました。

図2 2013年8月20日に実施した桜島の爆発的噴火に伴う緊急観測結果の一例

(a) 観測時の航空写真
(b) 高速機上処理システムで画像化し、地上に伝送した多偏波疑似カラー合成画像

図2 2013年8月20日に実施した桜島の爆発的噴火に伴う緊急観測結果の一例
航空写真では、雲や噴煙により火口付近の様子を確認できませんが、多偏波疑似カラー合成画像では、地表面の状態を詳細に確認することができます。なお、本観測画像のデータ解析からは、火粉流が発生したとされる地域で、本年1月観測時からの顕著な変化は認められませんでした。

今後の展望

今後、災害発生時の被災地における状況をさらに詳細に把握するために、機上から伝送する情報の高度化(観測データを高次処理することで得られる画像の歪みを修正したオルソ画像の作成や、数値標高地図の作成等)を進めていきます。数値標高地図は、例えば、火山噴火前後の数値標高地図を比較することで、火口周辺の地形変動の把握などへの活用が期待できます。さらに、広域処理画像の機上からの短時間での伝送方法の検討やWebなどを通じた広く一般の方への情報提供の推進を行っていきます。

表1 多偏波疑似カラー画像化の処理時間の比較

  多偏波疑似カラー画像化処理時間
既往の処理システム 新処理システム
地上処理システム 3時間以上 7.5分
機上処理システム 機能なし(モノクロのみ) 15分
 

アンテナ前に立つ児島主任研究員

アンテナ前に立つ児島主任研究員


研究者紹介