宇宙嵐のメカニズム解明を目指して ─自己無撞着型磁気圏電離圏結合アルゴリズムによる磁気圏シミュレータの開発─

宇宙天気とは

空の天気の様子、すなわち気象情報は、日々の生活において無くてはならないものですが、空の上の世界については私達は普段意識することはありません。しかし通信/放送衛星・気象衛星・航法測位衛星などにみられるように、現代生活の利便性は、その空の上の空間、すなわち地球周辺の宇宙空間「ジオスペース(Geo-space)」の利用に支えられています。宇宙というと静かな空間をイメージしますが、私達が現在利用し今後出ていくジオスペースは、実はとてもダイナミックな世界であり、時として「宇宙嵐」が発生します。ジオスペースの状態「宇宙天気」を常時把握し予測を目指す「宇宙天気科学」について、その前身である太陽地球系物理学の概要を通して紹介します。

宇宙天気予報会議

宇宙天気予報会議

太陽地球系物理学から宇宙天気科学へ

太陽近傍での重力と加熱の作用により宇宙空間に吹き出す太陽大気(コロナ)、すなわち、太陽磁場を伴った超音速プラズマ流「太陽風」は、太陽が宇宙空間に放出するエネルギーの重要な一形態です。太陽圏を埋め尽くす太陽風は一定ではなく、背景構造自体が太陽自転とともに回転しており、さらに、時折発生する太陽面爆発に伴うコロナ質量放出(Coronal Mass Ejection: CME)が、その背景構造に重畳します。

太陽系の惑星はすべて、太陽光とこの太陽風の影響下にあり、惑星固有磁場の有無・大気組成・自転周期などによってその詳細は異なるものの、太陽風/太陽光と惑星固有磁場/大気との相互作用により、惑星の勢力範囲ともいうべき「惑星圏」がそれぞれに形成されています。磁化惑星であり大気を有する地球では、プラズマと磁場の特徴的な構造を内包した「地球磁気圏」、大気上層が電離された「地球電離圏」が形成されています(図1)(以下、それぞれ磁気圏、電離圏と略)。変動する太陽風のもと、磁気圏―電離圏系もまた常に変動していますが、その応答は単純ではありません。

太陽風と外部磁気圏は磁気流体力学近似(MHD)で記述される領域ですが、放射線帯(Van Allen帯)を含む内部磁気圏は高エネルギープラズマによる粒子的描像も重要になってくる領域です。一方、磁気圏を構成する背景磁場は地球自身に由来するため、太陽風・外部磁気圏・内部磁気圏における電磁力学的変動は、磁力線を介して地球に伝えられます。この際、これら異なる各プラズマ領域が内部境界として共有するのが、強磁場弱電離気体系である電離圏です。完全電離気体系(プラズマ)に対して弱電離気体系であるということ、さらに、各領域と電離圏との時空間スケールの違いが、この電離圏を、単なる受動的内部境界ではなく能動的内部境界にしています。このように、太陽地球系物理学は、電磁流体・高エネルギープラズマ・強磁場弱電離気体系の普遍的物理・多圏間結合・階層間結合を内包し、外部ドライバー(太陽風)と能動的内部境界(電離圏)のもとで各領域間相互作用によって進行する、太陽風―磁気圏―電離圏システムにおける諸現象を、総括的に研究する学問分野です。

太陽風から磁気圏への流入エネルギーが特に大きくなると、領域間相互作用が活発になり、磁気圏蓄積エネルギーの解放・大規模構造変化・内部磁気圏における放射線帯や赤道環電流の増強・電離圏電流の増強、といった様々な擾乱が発生します。これら擾乱現象の総称が宇宙嵐です。太陽風エネルギーは太陽放射エネルギーに比べ2桁小さいため、大気圏以下で生活する人類は、極域に輝くオーロラ(磁気圏からの電磁エネルギー流入)・通信障害(電離圏の乱れ)・地磁気擾乱(電離圏電流の増強)などとして、宇宙空間の変動を垣間見るのみでした。これら徴候を手掛かりに超高層大気物理学が萌芽し、1957年国際地球観測年(International Geophysical Year: IGY)を経て、1960年代の宇宙探査本格化によりジオスペースの全体像が次第に明らかになってくるとともに、太陽風―磁気圏―電離圏をシステムとして追究する太陽地球系物理学が発展しました。

宇宙利用の本格化と社会インフラの高度化とともに、学問の対象領域は人類の活動域に包括されるようになり、そこでの諸現象は私達の生活に直接的に影響を及ぼすようになってきました。このような中、太陽地球系物理学は、惑星探査や物理素過程探究など様々な方向に学術展開する一方で、「宇宙環境」の様子とその影響、すなわち「宇宙の天気」を常時把握し予測を目指す「宇宙天気科学」として、現代社会と深く関わっています。特に、深刻な通信障害を引き起こす宇宙嵐の予測が急務となっています。

図1

図1.
太陽地球系の概観。太陽から吹出し太陽圏を埋め尽くす太陽風は太陽自転によるスパイラル構造を持つ。吹き付ける太陽風の影響で地球磁場は変形され、地球周辺には磁気圏が形成されている。上部大気は太陽紫外線により電離され「電離圏」を形成。変動する太陽風の下、磁力線を介してエネルギー・運動量・電流保存則を満たしながら応答する磁気圏電離圏結合系。

電離層観測用アンテナ

電離層観測用アンテナ

観測と数値シミュレーション

宇宙環境を常時把握し予測をする際、「観測対象」と、事象が観測対象で発生してから(あるいは観測されてから)地球に到達するまでの「経過時間」を考慮することが、ポイントとなります。

まず観測対象は、宇宙環境変動の源である「太陽そのもの」、その太陽を起源として「実際に磁気圏に到来する太陽風」です。太陽については、地上あるいは人工衛星搭載の観測機器を用いて様々な波長帯・時空スケールにわたって観測し、活動の様子を常時モニターします。実際に到来する太陽風は、ラグランジュポイント(太陽と地球の間の重力安定点)に配置された人工衛星で直接計測します。次に経過時間を整理すると、太陽と地球の間の距離は約1.5億km、ラグランジュポイントと地球の間の距離は約150万kmありますから、平均的な太陽風(400km/s)は太陽面を出発して約3日後、ラグランジュポイントを通過して約1時間後に磁気圏に到来します。(ただし、CMEは時に1000km/sを超えるスピードを持っており、タイムラグはもっと短くなります。)

以上を整理すると、まず太陽を観測して、どのような太陽風が到来するかを推測し警戒しつつ(3日前)、実際に到来する太陽風を計測して、磁気圏・電離圏で生じる現象を推測します(約1時間前)。実際の磁気圏と電離圏の状態は、人工衛星・地上観測網によって把握されます。現在、太陽から地上にいたるまで観測が充実してきていますが、これは国内外の研究機関それぞれの努力と相互協力のもとで実現しています。NICTは、太陽電波観測施設(指宿市)、太陽風観測衛星データ受信局(小金井本部。世界4局のうちの1つ。)を有するとともに、地上磁場観測網やHFレーダーによるジオスペース観測を展開しています。また、電離圏観測については、長期にわたる国内の定常観測を継続しているとともに、東南アジア域にも現地機関との協力のもと観測網を展開しています。

自然現象を把握する大前提は観測です。しかし広大な宇宙空間は、観測のみで把握するのは困難です。外から見ることもできません。何よりも、観測は、過去と現在は教えてくれますが、未来は教えてくれません。宇宙環境の未然かつ正確な予測が急務となる今日、経験則による帰納的予測では限界があります。そこで強力な手段となるのが数値シミュレーションです。

当研究室では近年、観測網充実と並行してシミュレーション研究にも着手し、現在までに3つの大規模シミュレータを開発しています。大気圏電離圏結合モデル"GAIA"は、気象再解析データ・太陽紫外光・磁気圏から伝達する電磁場などを入力として大気圏および電離圏状態を計算します。磁気圏MHDシミュレータは太陽風データを入力として動きます。しかし前述のように、観測された太陽風からは1時間未来しか計算できません。このリードタイムを延ばすため、太陽面観測データを元に太陽風3次元構造を計算する太陽風MHDシミュレータも開発しています。

実用化に向け、これらシミュレータの高精度化および統合化をすすめています。しかし大規模シミュレータの単純な高精度化だけでは再現できない多くの現象が存在します。そのような現象を記述するため、太陽フレア予測モデル、太陽プロトン伝搬モデル、放射線帯電子フラックス予測モデル、局所電離圏超高精細モデルなどの開発にも取り組んでいます。このように当研究室ではメンバー全員が協力し合い、「観測」と「数値シミュレーション」を軸に、太陽から電離圏にわたる宇宙空間各領域の研究を展開しています。(詳細は研究室Webページをご覧ください。)

図2

図2.
太陽-太陽風MHDシミュレーションによる計算例(キャリントン周期2028、2005年3月25日~4月21日期間)。

(a) キャリントン経度270度と180度から見た太陽近景(それぞれ2005年3月31日および4月7日に地球から見た太陽に対応)。カラーとコンターラインは1.2 Rs(Rs:太陽半径)での温度と質量流速動径成分、磁力線のカラーはコロナ温度。下部は対応する日時にSOHO衛生EITにて撮像された画像。

(b) 太陽圏赤道面での太陽風構造。中心は対応、外縁は半径200Rsの円。白線はキャリントン経度360度、270度、180度、90度(それぞれ2005年3月25日、3月31日、4月7日、4月14日に地球に面する経度。)コンターラ院は太陽風速度地球方向成分、カラーは磁場極性。

(c) L1軌道におけるシミュレーションデータとACE衛星による実測データの比較。縦破線はキャリントン周期の開始と終了。上段から、太陽風速度地球方向成分、プラズマ密度、プラズマ温度、磁場強度、セクター極性の指標。黒点線はACE衛星データの1時間平均値、緑実線はACE衛星データ1日平均値、青実線はシミュレーションデータ。

スーパーコンピュータ

スーパーコンピュータ

オーロラ爆発現象「substorm」

私自身はこれまで、磁気圏観測データ解析・太陽風MHDシミュレーション・電離層数値モデルなどによる研究を行ってきましたが、今後、磁気圏シミュレーションと磁気圏観測を行いたいと考えています。

磁気圏シミュレータは国内外で競って開発されていますが、未だどのシミュレータも宇宙嵐の厳密な再現には至っていません。シミュレータ改良課題として、異常抵抗・磁気拡散項・現実的なジオメトリ・数値計算上の問題などがありますが、特に、磁気圏電離圏結合の自己無道着な記述が物理的に重要であると考えています。その理由の1つとして、電離層電場ポテンシャルソルバー(図3)による計算結果を図4に示します。伝導度分布が一様な場合は((c'))、入力情報(磁気圏から流入する電磁エネルギー)に対して生成される電離層電磁場は単純です((d'))。しかし現実の非一様な伝導度分布では((c))、伝導度勾配による分極効果により、電離層は新たな電磁場を自己生成し((d"))、その自己生成場も含めた情報を磁気圏に返します((d))。このソルバーは、元来3次元である電離圏を2次元近似したものですので、電離圏内部過程は陽に記述されていません。最新の理論研究では、この過程は強磁場弱電離気体系特有の非等方性(Pedersen-Hallシステム)による多段階ステップになっていると考えられます。 さらに重要なことは、図4はある入力場に対して決められた定常場の2次元スナップショットにすぎず、現実の世界では、3次元システムにおいて入力場・自己生成場・反射場が常に整合性を保って物事が進行しているということです。現在どの磁気圏シミュレータも、このソルバーと同じ概念の内部境界条件を用いており、かつ、3つの場の整合性が考慮されていません。つまり、この電離圏自己組織化とそれを含んだ入反射問題の時間発展を記述できていません。

今後、国内外の磁気圏電離圏結合の理論家と協力し、理論の進展とともにシミュレータの改良を順次進めていきます。数値シミュレーションと観測データ解析を通して、宇宙嵐の中でも特に、磁気圏電離圏結合系の基本的なエネルギー解放過程でありながらも50年来の未解明問題、太陽地球系物理学を象徴するオーロラ爆発現象「substorm」のメカニズムを、解き明かしたいと思っています。

図3

図3.
電離層電場ポテンシャルバーの概要。(a)~(c)ともに、球面は電離圏を鉛直方向に積分(2次元近似)した電離層面、上が北極、左手前が真昼側。(a)電離層電気伝導度分布(2x2テンソルの4成分(Σθθ, Σφφ, Σθφ, Σφθ=-Σθφ)のうちΣφφを表示)。昼側は太陽光が当たるため大きく、特に赤道付近で非常に大きい。一方夜側は太陽光が当たらないため小さいが、オーロラ帯は降下粒子により高まっている。(b)磁気圏から流入する電磁エネルギー(沿磁力線電流)。(c)ソルバーに(a)(b)を入力し得られる解。カラーは電離層電場ポテンシャル、矢印は電離層電流。

図3

図4.
電離層電場ポテンシャルソルバーに分極場分離法を適用して抽出された、電導度非一様性に起因する分極場生成の様子。(a)~(d")とも北極上空から電離層を見ており、左側が真昼側。(a)~(c')コンターは伝導度分布、カラーは磁気圏から流入する電磁エネルギー。(a)(b)はそれぞれ伝導度対角成分Σθθ, Σφφ(極域ではPedersen伝導度と等価)、(c)は伝導度非対角成分Σθφ, -Σφθ(極域ではHall伝導度と等価)、(c')は(c)を一様分布にしたもの。(d)背景伝導度分布として(a)(b)(c)を用いた場合の解。(d')背景伝導度分布として(a)(b)(c')を用いた場合の解。(d")は(d)と(d')の差分、つまり伝導度非対角成分の非一様性によって生成される電磁場が抜き出されたもの。

宇宙天気予報データをチェックする中溝研究員

宇宙天気予報データをチェックする中溝研究員


研究者紹介