この研究報告は、2012年7月29日、NHK Eテレで放送された「サイエンスZERO 地震予知!上空に現れた謎の異変」で取り上げられました。

津川 卓也(つがわ・たくや)

電磁波研究所 宇宙環境研究室 主任研究員。
大学院博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(名古屋大学、マサチューセッツ工科大学)等を経て、2007年、NICTに入所。電波伝播に障害を与える電離圏擾乱現象の監視・予測・補正に関する研究に従事。博士(理学)。

津川 卓也

Adobe Flash Player を取得

fig.1 地震発生直後の電離圏の大気波動(全電子数変動)

2011年3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震の数分後に電離圏で大気波動を捉えられたとお聞きしましたが、このアニメーションがそうなんですね!! でも、どうやってこの事を知ることができたのですか?

博士:「超高層の大気は、その一部が太陽紫外線などで電離され、プラスとマイナスの電気を帯びた粒子で構成された電離ガス(プラズマ)となっています。このプラズマ状態の大気が濃いところを電離圏と呼びます。電離圏プラズマは、通常の大気に比べ1%にも満たない希薄な目に見えない大気なのですが、イオノゾンデやGPSなどを利用した電波観測によってかなり小さな変動も「見る」ことができます。このような電波観測を定常的に行なっているのですが、今回の地震後、これまで見たことがないような電離圏変動が現れました。この変動の中心が津波波源と一致していることや、地震発生から電離圏で変動の現れ始めるまでの時間などを考えた結果、地震と津波が大気を揺らし、その大気の波が、電離圏まで伝わって電離圏プラズマの変動を起こしたと考えられることがわかりました」

fig.2 電離圏とは…

fig.2 電離圏とは…

博士、教えていただきたいことがたくさんあるのですが、初めに電離圏ってどんなものなのか教えていただけますか。

博士:「では、電離圏の高さについてお話ししましょう。飛行機は高さ10 kmくらいのところを飛んでいますが、オーロラの「裾」や流星が光り始める高さはもっと上空の高さ約100 kmくらいです。このあたりは、電離圏の下部にあたります。国際宇宙ステーションは、高さ400 Kmの上空を飛んでいますが、この付近で電離圏が最も濃くなります。このような超高層の大気は、希薄ですが大気はまだあります。例えば高さ150 kmくらいでは、大気中の酸素原子の一部が、太陽の極端紫外線で電離され、電子と酸素イオンとなります。高度によって大気の組成が異なるため、電離している粒子も変わりますが、高さ60 Kmから1,000 Kmくらいの領域では、このような電子やイオンで構成される電離ガス、すなわちプラズマが存在します。この電離ガスが濃い領域を電離圏と呼んでいます(fig.2 参照)。なお、未だ「電離層」と呼ばれることも多いですが、近年は「電離圏」と呼ぶのが一般的です」

なんとなく電離圏がどの様なものなのかわかったような…。イオノゾンデってどんな電波観測なのですか?

Adobe Flash Player を取得

fig.3 イオノゾンデの原理

博士:「イオノゾンデは、電離圏の高さや電子密度を知るためのものです。古くからある電離圏観測装置の一つで、NICTでも、国内4ヶ所で半世紀以上観測を続けています。短波(HF帯)帯の電波を周波数を変えながら上空に向けて送信して、電離圏での鏡面反射によるエコーを観測します。周波数毎にエコーの時間差を計測することで、電離圏の電子密度の高度分布を知ることができます(fig.3 参照)。
この観測データを活用すれば、電離圏で反射する周波数の最大値などを計算することもでき、短波を利用して交信をするアマチュア無線などでもよく利用されている観測データです」

fig.4 電波を反射する電離圏

fig.4 電波を反射する電離圏

算出したTECの値を記入していくと…

GPSを利用した電波観測ってどういうものなんですか? それから、最初に見せていただいた「GPSを利用した電離圏変動のアニメーション」ですが、どうして日本列島のカタチがいくつも現れて、だんだんと広がっていくのですか?

博士:「日本列島の形がいくつか見えるのは、観測の方法に理由があります。つぎは、GPSを利用した電離圏観測について説明しましょう。
GPS衛星は、高度約20,000 km、6軌道面に、最低4機ずつ配置されています。原子時計を搭載し、正確な時刻情報等を1.2 GHzと1.5GHzの電波で送信しています。この電波を地上の受信機で受け、電波が届くまでにかかった時間を測定し、衛星と受信機の距離を計算します。カーナビや携帯電話などで使われている衛星測位では、複数の衛星からの距離情報から受信地点の位置を得ることができるわけですが、衛星からの電波が電離圏を通過する際、その周波数と経路上の電子の数に応じて電波の進みが遅くなる性質があるため、電離圏はGPS測位の誤差要因になります。GPSを利用した電離圏の観測では、この2つの周波数の電波の電離圏での遅れの差を計算することで、電波の経路上の電子の総数が得られます。これが全電子数(Total Electron Content; TEC)です」

Adobe Flash Player を取得

fig.5 GPSを利用した電離圏全電子数(TEC)観測 ---- 電離圏の電子の数を知るために

「最初にお見せしたアニメーションでは、電離圏のピークとなる300 kmの面(電離層面)に、TECの値を色で表示しています。 この場合、1組の衛星と受信機から、この電離層面上のある1点のTECが求まります。現在、国内では国土地理院が運用しているGEONETというGPS受信機網を利用していますが、1,200点以上のGPS受信機がほぼ日本列島を埋め尽くすように配置されているので、すべての受信機とある1つの衛星から得られるTEC値を電離層面に表示すると、ほぼ日本列島の形になります。同時刻にほぼ真上や東西南北いろいろな方向にGPS衛星が複数見えるため、それぞれ電離層面の違った場所に日本列島の形ができる、しかもGPS衛星は動いていますから、このようなアニメーションになるのです」

Adobe Flash Player を取得

fig.6 「電離層面のデータのカタチはほぼ日本列島の形になる」

博士にお聞きします”波動”ってなんですか?

スタジアムでウェーブをご覧になったことがあると思いますが、人々が移動しているわけではなく、人々がタイミングを合わせて腕を上下させているから、波が移動していくように見えます。 人は波の媒質として在るわけです。波動とは、物質が伝搬する現象ではなく、位相が伝搬する現象です。必ず何の波なのか、どんな現象の波なのか考えることが、波動を考える上で大切なポイントになります。

なるほど、このような仕組みで上空の電離圏を研究されているのですね。そして電離圏に届いた地震・津波による大気の波動は、全電子数の変化として捉えられたという事だったのですね! もしあの時、飛行機で震源上空にいたら空振を感じられたりして。更にその上空の国際宇宙ステーションでもブルブルって空振が届いたりして…?

fig.7 宇宙にまで空振が届いていたら…

fig.7 宇宙にまで空振が届いていたら…

博士:「空振は噴火に伴い発生しますが、今回の地震時に気象庁の空震計の話が全く出てきてないことを考えると、空振はなかったようですよ!!」

ところでどのくらいの地震規模から大気波動が生じるのですか?

博士:「地震が起きた後の電離圏の変動は、1960年代くらい昔から、イオノゾンデやHF電波(短波)の反射を利用した観測が行われていました。これらの観測事例を見てみますとマグニチュード7クラスくらいから電離圏まで伝わる大気波動が起きているようです。地震や津波の規模に応じて実際電離圏がどれくらい変動しているのか、今後、対応付けを行っていく必要があると思っています」

津波の予報、警報に役立ちそうですか?

博士:「非常にはっきりと捉えられた電離圏内の波紋ですが、波紋の中心(以下、電離圏震央と呼びます)が地震計で推測された震央から170 km位南東沖合の方にずれていました。その後の解析で、この電離圏震央は、海底津波計等で推定された津波の波源と一致することがわかりました。このことから、津波波源の最初の海面変動が大気に波動を起こし、その大気の波動が高度300 kmの電離圏まで到達したと考えられます。電離圏の最初の変動は地震の約7分後から始まっていることから、最初に発生した大気の波動は音速で伝わっていたと考えられます。
今回のご紹介したような電離圏観測がリアルタイム化されれば、津波がどの時間、どの場所で発生し、どのくらいの規模であったかが比較的早い段階で推定できる、つまり津波の監視や警報などに利用できる可能性があると思います。そのためには、電離圏の変動と津波波源の海面の変動との定量的比較や、両者を結びつける大気波動の発生・伝搬のシミュレーションなど、やらなければならないことはたくさんありますが、GPSを利用した電離圏観測は、地上だけなく海上も含めて高空間・高時間分解能かつ広範囲で2次元観測が可能なので、現在の波浪計等による津波そのものの監視と組み合わせることで、より早くより正確な津波警報の実現が期待されます」

博士の夢を語って頂けませんか?

博士:「電離圏や宇宙天気は、一般の人々にはあまり馴染みがありませんが、短波通信や衛星通信、GPSに代表される衛星測位等に大きく影響を与えます。今後、多様な衛星の利用や宇宙旅行など、人々がさらに宇宙と関わりを持つようになる時代へと向かっていく中で、現在の天気予報と同じように、一般の人々にも役に立ち、馴染みが出るような宇宙天気の研究をしていきたいですね。天気予報のつぎにNICT発の宇宙天気予報が普通に流れているテレビ放送を宇宙ホテルで見ている、そんな時代になればいいなあと思っています」

長い時間、ありがとうございました。今後の活躍を心よりご期待しています。

宇宙船内で宇宙天気ニュースを見る津川主任研究員のイメージ

▲ ページの先頭へ戻る